三國湊町家PROJECT
Interview #2 中野幸代さん

住みよい町で、お店を営む。
三国らしさが詰まった心地よいカフェ。

オープンから一年半ながら、おしゃれで気になるスポットとしてファンが多いsaji space。
三国だけでなく、福井市や県外からもお客さんが訪れます。
その理由は、開放的で居心地よい雰囲気とオーナーの自然体で飾らない人柄。
三国の風土と溶け合う空間でした。

# 三国で働く

日常をちょっぴり楽しくする。
革工房とつながったカフェ。

のどかな田園風景のなかにある、信号のない交差点。三国町市街地から九頭竜川を渡って少し進んだ場所に、小屋風のおしゃれな建物が佇んでいます。2013年5月にオープンしたsaji space。革小物のアトリエが併設された、珈琲とケーキが美味しいカフェです。杉板のナチュラル感とモルタルの無機質な風合い。アンティーク調の家具とヨットのオールが調和したインテリア。芳醇な珈琲の香りとセンスの良い音楽。開放的で居心地のよい雰囲気にひかれ、三国の内外から様々な人が足を運んでいます。

オーナーの中野さんは、お店をオープンする前は会社員でした。三国神社の近くで生まれ育ち、高校を卒業後は大阪の学校に進学。三国に戻り銀行に勤めましたが、退職し再び県外へ飛び出します。しばらく京都で過ごした後、13年ほど前に再びUターン。それからは眼鏡会社で働いてきました。

会社に勤めながら、趣味で始めたのが革小物づくりでした。遊びで作っているうちに友人から依頼されるようになり、様々な作品を手がけました。そして40歳を目前にしたある時、「このまま会社勤めを続けていいのか。自分に出来ることは何だろう」と考え、退職を決意。もともとカフェにも興味があったので、いまの形でお店を開くことになりました。

「saji space」という名は、自身の革製品ブランド名からつけました。普段使っているものを革製品に替えるだけで、日常がちょっぴり楽しくなる。ほんの少しのさじ加減で、毎日を楽しくできる。そういう意味が込められています。日常使いできる物にこだわったオーダーメイドが中心です。

「身近なものを少し変えて、楽しんでほしい。そして、物を大事に使ってもらえたらいいな」

カウンター席の奥が、革小物を生み出す仕事場です。整然と並べられた仕事道具。やわらかな風合いを持つヌメ革。手仕事の息づかいを感じられる、絵になる仕事場です。

「革製品に興味がなくても、仕事場が見えることで興味が湧くかもしれない。革を身近に感じるきっかけになれば。そういう願いからカフェとつなげ、"見せる"仕事場にしました」

カフェ営業が終わり、お店の灯りを落としてからが制作の時間。全て手縫いで、味わいのある革製品を作リ出しています。

# 三国を選んだ理由

「暮らす」なら、三国がいい。
自然体で過ごせる、住みよい町。

気取らない、自然体の空気を身にまとった中野さん。三国を選んだのも、自然な選択だったようです。

「三国を離れても、好きだからまた戻ってくる。刺激を求めるなら都会がいいかもしれないけれど、『暮らす』には三国がいいんですよね」

10代後半と20代後半の時、三国を二度離れたからこそ見えてきたものがあるといいます。昔からの知り合いが多い。親もとで暮らして安心させたい。生まれ育った町で住む理由はいろいろあるけれど、三国の「住みやすさ」こそが一番の理由のようです。

「物件を探す時、今のような町家プロジェクトもなく、どうすればよいか分からず知り合いを頼って探すしかできなかった。たまたまお話をいただいたのが、この場所だったんです。田んぼに囲まれて、空も広い。気兼ねなくお店をできる場所だと感じ、気に入りました」

窓の外に広がる田んぼの緑と空の青さが、気持ちを穏やかにしてくれます。周囲を気にせず音を出せるのも、この場所の魅力。時々、音楽ライブも催しています。これからは作家の作品展や展示会なども、少しずつ自然体でやっていきたいそうです。

# 三国のいいところ

三国の人は皆、三国に帰ってくる。
海が近くて開放的な雰囲気が好き。

三国のいいところを尋ねると、「海があるところ」という答えが何度も返ってきました。

「三国の人は皆、外に出ても三国に帰ってきますよね。三国は、海が近いためか開放感があります。そういう独特の空気感が好きなのかも。広いというか、オープンな雰囲気がある。このお店も、そういう感じなのかな」

特別意識をしたわけではないけれど、気がつけばお店も三国っぽい雰囲気になっていたとか。物静かな印象ながら、ヨットが趣味というアクティブな一面を持つ中野さん。店内にディスプレイされたオールや船舶照明、帆などのヨットグッズが、海をより一層身近に感じさせてくれます。

「強いこだわりを持って空間を作ったわけではなく、自分の好みに合わせて作っていたらこうなった。これも自然な流れでした」

若い頃は三国の良さに気付かなかったとか。けれど、好きなものを集めたら、三国のような懐の深い空間が出来上がっていました。オープンで自然体な雰囲気は、海がある町によく似合います。

# 三国での暮らし

文化的なことに携わる人が多い。
祭り文化がベースにあるのかも。

お店を始めて分かったことは、三国の人はよく出歩くということ。若者に限らず老若男女、積極的に外に出かけていきます。外から移住してくる人も多い町です。三国の人は新しい物が好きなのかもしれませんね、と中野さん。

「感性の仕事、制作する仕事をしている人が多いことにも気づきました。物だけでなく、音楽や演劇、アートなど、文化的なことに携わっている人が多い。祭りもその一つだと思います」

昔にくらべ祭りに参加する人が減ったと言われていますが、それでも三国では大勢の人が祭りに関わっています。特に、北陸三大祭の一つと呼ばれる「三国祭」は、湊町文化の大きな象徴です。祭り文化がある意味は大きい、と中野さんはいいます。

「イベントごとが多いのは、参加する人が多いということ。こういう三国の気質には、祭り文化がベースにあるのかもしれないですね」

祭りがあり、伝統芸能を教える人がいる。今は同世代が教える立場になっていて、その姿を見ると、こうして文化は引き継がれていくんだなと感じるのだそうです。

好きな町だからこそ、三国にもっと人が来てほしいという想いもあります。三国に来てもらうためには、町に興味をもってもらうことが必要。そのためには、町そのものがしっかりしていなければなりません。大きいこと、小さいこと、その規模によらず、いろんな人が繋がることがが大切です。

「ここで出会いが生じて、そこから何かに繋がっていく。そういう空間になれば理想的ですね」

三国の心地良さがギュッと凝縮されたようなsaji spaceという空間。ここで人と人が繋がり、面白い流れが生まれていくー。さりげなく自然体で日々を重ねながら、そうした場になっていけばいいなと話してくれました。

saji space : COFFEE & LEATHER LABO
福井県坂井市三国町川崎54-13-6
営業時間 11:00〜20:00
木曜定休
TEL 0776-97-9063
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